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【連載コラム】アニ山本のマーケティング雑記帳① マーケティングの分裂と仏壇をググったらターゲティングされた話

2022.04.27

【連載コラム】 アニ山本の マーケティング 雑記帳① マーケティングの 分裂と 仏壇を ググったら ターゲティングされた

私は編の代表山本由樹の兄で一樹と申します。電通という広告会社に40年務めてきました。事業構想大学院大学でマーケティングを講義していますが、この度、株式会社編に参画いたしました。どうぞよろしくお願いします。

最近、仏壇を買い換えました。皆さん、仏壇を買う時にどうしますか?どこに売っているのか、相場はいくらぐらいなのか、ググりますよね。私もそうしました。すると、どうでしょう。その日から私がネットを開くたびに、霊園の広告だとか、介護付き老人ホームとか、ひざの関節に良いらしいサプリメントとか、そんな広告にあふれてしまったのです。これは、ウエッブ上の閲覧履歴データをもとに私がターゲティングされたという事です。市場という競争環境下で自社に有利なポジションを作るために、ターゲティングは最重要な施策の一つです。マーケティングテクノロジーの進展は、ウエッブ上の履歴、購買データ等を分析し、精緻なターゲティングとファネルごとに戦術的対応を実施していくデジタルマーケティングを生み出しました。

マーケティングにはもう一つの考え方があります。人々の記憶にブランドの象徴やイメージを戦略的に植え付けることで、他のブランドより人々の心の中に競争優位なポジションを作っていくブランドマーケティング派です。人はモノやサービスを単に消費しているのではなく、それに付随するイメージや価値観を享受している、と言う考え方ですね。両者の違いは、消費者の行動にフォーカスするか、心理面にフォーカスするか、にあります。

実はこの両者の考え方の違いが、クリエーティブコンテンツ開発に与える影響は小さくありません。デジタルマーケティングに関して言うと、単なるデータ分析からは人間のインサイトが得られないので、優れたクリエーティブへつながりません。ブランドマーケティングについても、こうありたいブランドの理想像が不明確な場合が多く、同様にクリエーティブ開発が難しくなってしまいます。

私はマーケティングとは、「消費と言う行動を通じて人間を理解する」方法論だと考えています。消費行動の先に人間への深い洞察がなければ、共感を得ることができるクリエーティブコンテンツの創造は不可能です。
21世紀の消費社会は、20世紀型の大量生産・大量消費から地球環境や社会との調和型消費へと大きく舵を切ったように思えます。企業やブランドも、現代社会の一員としての発信が求められています。従来からある、消費拡大を目的にした企業からの一方通行的な情報発信では通用しません。
このような変革期においては、自社のブランドの立ち位置や提供価値をもう一度再考しなければならないでしょう。新しい価値観に基づいた社会の一員として、人々とブランドとをつなぐ新たなストーリー・物語が必要とされているのです。

仏壇の話に戻ります。ターゲティングされた側の私は、自分が見透かされたような気がして、不愉快な気持ちになりました。「あなたに必要な商品やサービスはこれでしょう?」という態度が気にいらない。以来、私はサードパーティーにCookieデータを提供することを拒絶しています。(それはそれで、全く関係ない広告に悩まされていますが・・)

アニ山本(山本一樹)
1982年東京大学文学部美術史学科卒。 株式会社電通へ入社。以来40年にわたって、マーケティング局、クリエイティブ局、営業局と立場を変えながら、マーケティングコミュニケーションの最前線で実践経験を積む。2008年電通タイランドCOO就任。リーマンショック後のダメージから業績を急回復させる。2017年、電通クリエイティブX副社長執行役員として、経営改革を実行。DX戦略の一環として、デジタル時代の新たなクリエイティブ体験を創造する”DENTSU CRAFT TOKYO” を設立。同ユニットはカンヌライオンズで2度の受賞を早くも達成。2021年より株式会社編へ参画。2022年、事業構想大学院大学客員教授。
マーケティングテクノロジーへの過度の依存はクリエイティブコンテンツの退化を招いているのではないかと、危惧する日々でもある