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【連載コラム】アニ山本のマーケティング雑記帳② インクルージョンライダーになろう!

2022.05.09

【連載コラム】 アニ山本の マーケティング雑記帳② インクルージョンライダー になろう!

とある外食チェーンのマーケティング担当役員が、不適切な発言をして解任されてしまいました。報道されている通りだとすると、ご本人の見識の問題が大きいようですが、それ以上にこの外食チェーンの企業ブランドへダメージを与えてしまいました。あそこの牛丼大好きです。変なマーケティングなんかしないで、今まで通り美味しい牛丼を作り続けてほしいですね。

この事件には2つの観点から検討が必要です。1つは、マス発想のマーケティングはもはや通用しないということ。2つ目は、企業倫理、特にダイバーシティ&インクリュージョンの問題です。

第1回のコラムで、ターゲティングの話をしました。人をある属性や傾向で束ねる、方法です。マーケティングテクノロジーの進展で、WEB上の行動履歴等のデータから、従来以上に精緻にターゲティングできるようになったのですが、まだまだ発展途上であることも事実です。仏壇をググっただけで、老人扱いされたら誰だって不愉快になりますよね。将来的には、監視カメラの映像やスマホのGPSデータなど大量のデータをAIに分析させて、なんらかの発見を導き、さらにテクノロジーが発展していけば、マーケティングのパーソナライズが可能になるはずです。例えば、空腹で牛丼を食べたい気分の人の表情とか、行動の特徴が解析されれば、その人にだけプロモーションを行えばいい。今、マーケティングは確実にその方向に向かって進歩しています。

マーケティングの用語にはなぜか軍事用語が多いのです。ターゲットは的です。そう、大砲で撃つ的です。キャンペーンも軍事用語で、例えばナポレオンのロシア戦役は、英語ではロシアンキャンペーンと言います。ある目的のために一定期間行われる行動の集積がキャンペーンなのですね。「キャンペーン実施中」とCMなんかで気軽に使っているのが不思議な感じです。そういえば、キャンペーンを実施することをエグゼキューションといいますが、これは処刑という意味を持っています。マーケティングを始めたプロクターさんとギャンブルさんが軍隊出身であったから、とか言われていますが、市場と言う戦場で競合企業とのし烈な戦いを制する戦術として発展したことが、軍隊用語がフィットした理由なのでしょう。

20世紀型の大量生産、大量消費というマスモデルから始まったマーケティングは、今、大きく変化しつつあります。ターゲティングからパーソナライズへ、という進歩は必然です。例の不適切発言の方は、大手外資系のマーケティング部門で成果を上げた方だそうですが、マス発想から抜け出せていなかったのでしょうね。もはや、顧客を束ねてステレオタイプな特徴でターゲット呼ばわりする時代ではなく、一人一人の顧客を見つめていかないといけない時代なのです。

第2の観点は、ダイバーシティ&インクリュージョンでした。企業はなぜ対応しないといけないのでしょうか。これは、個人と社会の関係が大きく変化し、特にソーシャルメディアの発展が個人の情報発信力を飛躍的に高めた結果、企業側が持っていた情報の非対称性からくる利点が失われてしまった事が原因です。つまり、個人と企業が同じ立ち位置にいるのが、現代社会なのです。ただ消費を煽るだけで、多様性と包摂性を理解しないまま、社会や地球環境との共存も考えず、適切なアクションを取らない企業は絶対的に淘汰されます。

インクリュージョン、包摂性と訳されていますが難しい言葉です。お互いの違いを理解し、認め合う関係を作ることだと思いますが、私がこの言葉に初めて接したのは2018年のアカデミー賞で主演女優賞を受賞したフランシス・マクド―マンドのスピーチでした。彼女はそのスピーチの後半でいいます。「この会場にいる全ての女性、ノミネートされている演技者、プロデューサー、ディレクターや、スタッフの皆さん、立ち上がってください。私は2つの言葉を残します。Inclusion Rider」。イージーライダーみたいでかっこいいなあ、と思い、すぐ辞書で調べたことを覚えています。

YouTubeのURLを貼っておきますね。ぜひ、見てください。
https://www.youtube.com/watch?v=4gU6CpQk6BE

そして、この2つの観点は統合されねばなりません。個人と、企業やブランドがワンオンワンでつながる時代が始まりつつある、と言う新しいセオリーです。この変化は、編のようなブランドコンテンツを得意とする会社にも大きな影響を与えます。ブランドのストーリーは、ブランド側から一方的に発信され、顧客はそれを受け取るだけの関係性であったのが、ブランドと一人一人の顧客とのリレーションを通じて、それぞれのブランドストーリーが共創される時代に差し掛かっているからです。ブランドとカスタマーとの関係の再定義が必要な時代になってしまったのです。

イージーライダーのピーターフォンダとデニスホッパー、カッコよかったですよね。俺にもあんなワイルドな生き方があったんじゃないだろうか……やっぱ、ないかあ。

アニ山本(山本一樹)
1982年東京大学文学部美術史学科卒。 株式会社電通へ入社。以来40年にわたって、マーケティング局、クリエイティブ局、営業局と立場を変えながら、マーケティングコミュニケーションの最前線で実践経験を積む。2008年電通タイランドCOO就任。リーマンショック後のダメージから業績を急回復させる。2017年、電通クリエイティブX副社長執行役員として、経営改革を実行。DX戦略の一環として、デジタル時代の新たなクリエイティブ体験を創造する”DENTSU CRAFT TOKYO” を設立。同ユニットはカンヌライオンズで2度の受賞を早くも達成。2021年より株式会社編へ参画。2022年、事業構想大学院大学客員教授。
マーケティングテクノロジーへの過度の依存はクリエイティブコンテンツの退化を招いているのではないかと、危惧する日々でもある